友野教授

「直観」を当てにして良い時と、そうでない時

明治大学
情報コミュニケーション学科
元教授 友野典男様

この記事は、書籍「経営者のための経営するオフィス」のインタビューから一部抜粋したものです。

弊社 河口

友野教授

弊社 河口

友野教授:
行動をするのに『システム1』を働かせるのはとても良いのですが、大きな欠点もあるのです。経営者の方は、長年の経験によるカンで経営を進めている方も多いでしょう。これは『システム1』が働いているといえます。ところが、『システム1』は間違えやすいのです。しばしば、経験にとらわれて客観的に見られなくなります。お店やネットショッピングで衝動買いをしたとか、屋台でおいしそうだからと飛びついたという行動は、ほとんどが『システム1』の反応です。『システム1』には、そういうバイアスがかかりやすく、間違えやすいという欠点があります。

※『システム1』『システム2』については、以前掲載の対談をご参照下さい。

⇒ 対談:人の行動の8~9割を「システム1」が決める


河口:
長年の経験からくるカンなので、自信を持っている人も多いと思いますが、実は衝動的なバイアスがかかっている可能性があるということですね。ということは、私たちがやっている、社長が「こうなってほしい」という方向を明確にして、そちらに社風が変わるように『システム1』に訴えていくというのは大丈夫なのでしょうか。

友野教授:
それはそれで、非常に有効だと思います。しかし、社長には『システム1』だけではなく、『システム2』をもっと働かせてもらった方が良いですね。

河口:
感情で動きすぎると良くないということですね。

友野教授:
そういうところもあります。直感の方がいいという説もありますが、直感に頼りすぎると間違いやすくなります。

河口:
良くも悪くも、直感は行動のきっかけにはなりますが、ハンドルを切る方向を誤れば、どこに行くかわかりませんからね。


友野教授:
そうです。行動の大部分は『システム1』で動くので、直感がブレていたら思わぬ方向に進んでいたと、後で気づきます。そうかといって、直感は信頼できないということではないのです。とても限定されますが、直感が信頼できる分野もあります。それは、すごい経験を積んだことでフィードバックがあって、結果がすぐにわかる場合です。具体例を出すと将棋とか囲碁です。

河口:
行動のほとんどを『システム1』が決めているというケースですね。過去の経験の多さが直感の信頼性につながるということですね。

友野教授:
そうです。将棋の手は、直感で3手に絞って1手ずつ考えてみる、というようなことをしていると言われています。しかし、同じ将棋を同じルールでやっても、素人にはその直感が正解の方向へ進まないのです。棋士は、将棋という局面において、自分の手が過去に、成功したか失敗したかをすぐにフィードバックできるほど、経験を多数積んできたことで直感の信頼性が高まっているということです。将棋だけではなく、ナースが患者の具合を見たときに、カンが働くというのも同じ理由でしょう。さらには、消防士や消防士の司令官も同じような事例があって、火事の現場で消化作業をしていると、この後にここが崩れるとか、火元はこっちじゃないかということにかなりカンが働くという研究もあります。こういった特定の分野では、かなり信頼できる直感が働くと言われています。

しかし、それ以外の分野の直感は、アテにならないと思った方がいいようです。アテにはならないとはいっても、その直感は当たることもあります。財務のプロであれば、財務に関しての直感が働いているでしょう。ところが、人間の特性として自分の経験で1、2回うまくいくと、自分は直感が優れていると思いたがります。そこで、まったく違う分野でも直感を働かせようとするので失敗するのです。棋士の話を聞くと、手は直感的に決めるようです。しかし、直感だけで進めるのではなく、直感で決めた手が論理的に正しいかどうかを考えているようです。

河口:
専門分野で働く直感と、そうでない分野で働く直感は、別物として考えないと失敗しやすいということですね。たしかに、専門分野で直感が当たると、他の分野でも自分の直感は通じると思いがちです。そうやって間違っていくんですね。


この記事は、書籍「経営者のための経営するオフィス」の一部を抜粋したものです。
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「経営者のための経営するオフィス」著者:株式会社翔栄クリエイト 河口英二 1,650円(税込)

※翔栄クリエイトの頃(事業譲渡前)に出版したものです。

明治大学情報コミュニケーション学部 元教授
友野 典男 様


早稲田大学商学部卒,同大学院経済学研究科修了。
明治大学情報コミュニケーション学部教授を経て,現在,同大学院情報コミュニケーション研究科講師。
専門は行動経済学。主要著訳書『行動経済学-経済は『感情』で動いている」(光文社),『感情と勘定の経済学』(潮出版社),『ダニエル・カーネマン心理と経済を語る』(楽工社)。

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「行動経済学 経済は「感情」で動いている」著者:友野典男 1,045円(税込)