友野教授

明治大学
情報コミュニケーション学科
元教授 友野典男様

この記事は、書籍「経営者のための経営するオフィス」のインタビューから一部抜粋したものです。

弊社 河口

友野教授

弊社 河口

友野教授:
行動経済学や行動科学、認知心理学の分野では、頭の中には『システム1』と『システム2』という2つのシステムがあり、それが人の行動を決定しているとしています。

簡単にいうと、『システム1』は感情や直感を担当し、『システム2』は考える・熟慮することを担当しており、その両方が互いにやり取りをして、その結果で行動が決まる仕組みです。

互いにやり取りをするというと、両方が対等のように感じるかもしれませんが、人間の行動の8割から9割を『システム1』が決めていると、多くの研究結果で報告されています。

感情や直感を担当する『システム1』が行動を決める力が大きいということは、無意識のうちに行動を決めてしまっている傾向が強いということです。

ですので、御社さんがやられている『システム1』『システム2』に適切な影響を与える空間というのは、社員の行動に非常に大きな影響を与えると思います。




河口:
ありがとうございます。経営者が、もっと会社を良くしようと思って、社員に対して「もっとこうしましょう!」と語っても、なかなか会社は変わりません。

経営者が変わってほしいと思っている方向に社員の行動が変わるよう、『システム1』に直接訴えかける空間があれば、一生懸命に社員に語らなくても、自然に経営者の思った方向に会社は変化していくと思うのです。

  
友野教授:
たしかに、経営者が言葉で語るよりも、社員の行動が変わるオフィスを意識して設計したほうが、人間の行動は変わりやすいと言えますね。

『システム1』は直感と感情で動くので、エネルギーも大してかからず、疲れないですし、すぐに結論が出ます。それに比べると、『システム2』はたいへんです。考えることでエネルギーが必要になり、意識的に行動しなくてはなりません。ですから、『システム2』に働きかけて人に動いてもらうことはたいへんなのです。

人は楽な方を選びたがるので、行動に及ぼす影響は『システム1』が大きくなるということです。人を動かすときは、『システム1』の直感に訴えて動いてもらうことが非常に効率的で手っ取り早い方法なのです。動く方も自然に行動しているので、行動することが負担にならないのです。

経営者が社員に対して語るという『システム2』に訴えるやり方でも効果が出ないわけではないでしょう。しかし、社員の行動が変わるまで、とにかく時間がかかります。しかも、効果がある人とない人のばらつきも出る。

社員に考えてもらい、行動を変えてもらうよりも、『システム1』の直感で動いてもらえる環境があった方が経営者、社員の両者にとっても楽と言えますね。
 
 
河口:
そうですよね。『システム1』と『システム2』のどちらに伝えるかによって、相手の行動は大きく変わりますよね。
 
 
友野教授:
アメリカでは、『システム1』に訴えて労働環境を改善する試みがなされています。

たとえば1時間に1回程度、パソコンのモニターに社員とそのペットの写真を流すということを実施している会社があります。ペットの写真が流れ出すと、社員は意識せずとも休憩タイムになります。ペットと触れ合っている人間の写真が流れると、自然に目が移り、仕事の休憩につながります。さらに、ペットの写真が起因となって、社員の間ではペットを介したコミュニケーションもすごく盛んになるという側面も出てきます。

こうした環境づくりでたいせつなことは、会社からは「ペットの写真を1時間ごとに流します」というアナウンスのみで、社長は「ペットの写真をちゃんと見なさい」などと押し付けることはしないということです。

そんなにゆるい施策で効果が出るのかと思うかもしれませんが、『システム1』で反応するようにきちんと考えられた施策であれば、効果が出てきます。

この会社では、ペットの写真が流れると自然と休憩タイムになりました。更に「この犬かわいい」など、自然なコミュニケーションが生まれることになりました。これが『システム1』の利用方法なのです。

人間の行動において『システム1』はかなり主導権を持っています。『システム1』に着目をして人の行動を変えようという試みは、非常に理にかなっているのです。

この記事は、書籍「経営者のための経営するオフィス」の一部を抜粋したものです。
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「経営者のための経営するオフィス」著者:株式会社翔栄クリエイト 河口英二 1,650円(税込)

※翔栄クリエイトの頃(事業譲渡前)に出版したものです

明治大学情報コミュニケーション学部 元教授
友野 典男 様


早稲田大学商学部卒,同大学院経済学研究科修了。
明治大学情報コミュニケーション学部教授を経て,現在,同大学院情報コミュニケーション研究科講師。
専門は行動経済学。主要著訳書『行動経済学-経済は『感情』で動いている」(光文社),『感情と勘定の経済学』(潮出版社),『ダニエル・カーネマン心理と経済を語る』(楽工社)。

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「行動経済学 経済は「感情」で動いている」著者:友野典男 1,045円(税込)